当院の診療内容(1)

2024/10/17

月経困難症の方へ

月経の時に、下腹痛、腰痛、胃痛、頭痛、腹部の張り、むくみ、だるさ、つらくて横になるしかない、仕事や学校に行けない等、日常生活に支障を来す状態を月経困難症といいます。子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫の方は器質性といい(しばしばこれらは合併します)、明らかな病気がないときは機能性月経困難症といいます。しかし病変を見つけにくいときもあるため、すべてを明確にこの二つに分類することは困難だと思います。器質性月経困難症の場合は手術療法を選択できる点に意義があります。薬物療法に大きな違いはありません。

 

1ロキソニン、ボルタレン坐薬

月経困難症はプロスタグランジン等の炎症を惹起する物質が増加する現象なので、プロスタグランジン合成阻害剤のロキソニン、ボルタレン坐薬が有効です。しかしながら、胃痛などの消化器症状のある方や、そもそも重症な方では無効であり継続困難です。

 

2手術療法

当院では手術できませんので、症状があまりにも強い方や、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫が存在し手術適応のある方は高次医療機関へ紹介させていただいております。子宮内膜症のチョコレート嚢腫の直径が6㎝以上、半年で倍以上に増大する場合、内腔壁に結節が見られるとき。子宮腺筋症では子宮壁が45㎜以上で高度な貧血や疼痛、子宮筋腫では子宮中心部に筋腫があるとき(粘膜下筋腫)や筋腫内に不整なエコーパターン、重度の貧血が見られるときなど、本人の希望と症状の強さをよく確認して手術できる病院へ紹介させていただいております。

 

3レルミナ

子宮筋腫による過多月経や貧血、子宮内膜症に基づく疼痛が高度な時には、レルミナから治療を開始します(レルミナファースト)。レルミナは下垂体に存在するホルモン受容体に作用して女性ホルモンをほぼ閉経期レベルまで約1か月で低下させる作用があります。すなわち内服開始後1か月くらいすると出血や疼痛は著明に改善し、症状は落ち着きます。2~3か月しても症状が続く場合は、かなり重症か悪性疾患が隠れている場合があり注意が必要です。手術療法をおすすめする根拠になることもあります。

副作用は低エストロゲンによる、いわゆる更年期障害です。不眠や抑うつ症状などの精神症状が強く出る場合、関節のこわばりや疼痛が強く出る場合、ほてりのぼせが強く出る場合などはレルミナ中止も考えます。骨量減少や悪玉コレステロール上昇の可能性もあるので、適切な時期に骨量検査や血液検査が望ましいです

レルミナ治療は半年間で終了で、その後はヤーズフレックス、ディナゲストによる治療に移行することが多いです。

 

4ヤーズフレックス、ディナゲスト(ジェノゲスト)

仕事や学校を、「生理休む」のではなく、これらのお薬で「生理休む」ことができます。

エストロゲンとプロゲステロン配合剤(低用量ピル)がヤーズフレックス、プロゲステロンだけがディナゲストです。初経後3年以内、50才以降、また血栓症のリスクある方はディナゲストがよいとされます。それ以外のケースではどちらも選択できます。

ヤーズフレックスは従来の低用量ピルとは違い、120日間連続服用が可能で生理を120日周期にすることができます。内服を開始したら出血があっても最低24日間は内服継続しますが、それ以後は3日間無視できない出血を見たら4日間休薬して生理を起こします。スケジュールによってはいつでも4日間休薬すれば自由自在に生理を起こすことができます。当院では約半数の方が120日周期となっております。「生理を休む」ほうが、症状はより楽になり、将来子宮内膜症などの病気になりにくくなると今の産婦人科の学会では考えられています。副効用としては、月経前症候群やメンタリティーなどの改善、ニキビなどの肌荒れ改善や美容効果、避妊効果などがあります。副作用は1万人中3~9人の頻度で血栓症があるので、充分に注意をしながら治療することになります。

ディナゲストはプロゲステロン黄体ホルモンです。従来のプロゲステロン剤では、便秘、熱感、だるさ、頭痛、うつ気分、肌荒れなどの副作用がありましたが、第4世代であるディナゲストではほぼこれらの副作用は見られなくなりました。内因性のエストロゲン低下や子宮内膜増殖を直接抑制する作用を期待できるので効率よい治療法です。副作用は不定期で持続的な出血で、7~8割の方に認められます。ディナゲスト治療を選択した時は不正出血に対する対応をよく相談することになります。ディナゲスト治療中には気づかずに妊娠することもありますので注意が必要です。

 

 5ミレーナ

「ミレーナで子宮内治療の方へ」を参照して下さい。

 

6当帰芍薬散、桂枝茯苓丸

妊活中の方は、上記のホルモン剤は使いにくいです。当帰芍薬散は虚証の方によく月経困難症だけでなく不妊症にも流産予防にも適応があります。冷え、むくみ、頭痛にはとくに効力があります。桂枝茯苓丸は実証の方によく炎症などを伴った悪い血が骨盤内に渋滞したもの(瘀血)を駆除する作用(駆瘀血作用)を期待できます。桂枝茯苓丸は実証の薬ですが、虚証の方でも強い痛み自体が実と考えて内服すると改善することがあります。

 

7エクエル

エクオールは子宮内膜症組織に対し、抗エストロゲン活性を発揮する可能性があります。特にエクオールはエストロゲンβ受容体に親和性が強く、内膜症細胞ではβ受容体が強く発現しているとされます。今後の研究に期待するところですが、上記の治療が難しい方にとって予防や治療の選択肢に入るでしょう。

「エクエル内服の方へ」を参照して下さい。

2024/10/14

ホルモン補充療法の方へ

1)ホルモン補充療法は、ほてり、のぼせ等の更年期症状を改善します。

今まではホルモン補充療法が最も有効とされてきました。しかしながら、最近アメリカで認可された視床下部の神経伝達物質阻害薬であるFezolinetantはホットフラッシュにかなり有効なようです。すでにアメリカでは実用化され日本でも治験の段階にあるそうです。これは女性ホルモン剤ではありませんので内科、耳鼻科、精神科などでも処方可能と思われます。そうなるとホットフラッシュ治療のために婦人科受診の必要性は少なくなると予想されます。

 

2)ホルモン補充療法であれば、骨粗しょう症、萎縮性膣炎、脂質異常症、更年期うつ症状、お肌の不調、生活の質を改善する効果が期待できます。

ホルモン補充療法はほてりやのぼせ改善だけでなく総合的に女性を健康にする効果もあり、50歳代に5年以上のホルモン補充療法により20年後の死亡率が有意に減少したとアメリカでは報告されています。上記の視床下部の神経伝達物質阻害薬であるFezolinetantにこれらの効果を期待することは難しいと考えられます。

 

3)ホルモン補充療法においては、ジェルやパッチの経皮吸収エストロゲンと天然型プロゲステロンの組み合わせが最も安全な治療法とされています(日本女性医学学会)。

当院ではル・エストロジェルとエフメノによる連続療法を基本としております。ル・エストロジェルは東京医科歯科大学産婦人科で治験担当責任医師を担当して以来約30年の経験があります。経皮剤なので経口剤と比較し、肝初回通過効果がなく血栓症などの副作用が少ないとされます。入浴後に化粧品を塗る要領で両腕に塗布していただければ良いです。そのときに、「きれいに元気になれ」と願いを込めることが大切です。エフメノは天然型黄体ホルモンであり従来の合成型黄体ホルモンと比較して、有意に乳がんが増えることがないとされています。エフメノ連続法は周期法に比べGABAに一定して作用するので睡眠障害にはよろしいと考えています。不正出血という負の点もありますし、パッチ剤、経口剤、周期法、合成型黄体ホルモンがよろしいという方が一定数おられますので、適宜相談をして処方しております。

 

4)1年に1回子宮頸がんと体がんの検査、超音波検査、血液検査等が望ましいです。

市町村が行う対策型検診では2年ごとでよろしいのですが、ホルモン補充療法中は毎年が望ましいです。子宮内膜症や悪性腫瘍などで子宮卵巣などを切除されている方でもホルモン剤による影響を否定するために経膣エコーをおすすめします。

 

5)1年に1回の乳がん検診、マンモグラフィーや乳腺超音波検査を受けてほしいです。できれば、1ヶ月に1回乳房の自己検診もお願いします。

ホルモン補充療法により乳腺濃度が高くなるとされます。マンモグラフィーは2年に1度としても乳腺超音波検査は毎年受けることがおすすめです。特に高濃度乳腺の方は乳腺超音波検査が有効です。

 

6)まれに血栓症があるので、ふくらはぎのマッサージ、適度の水分摂取を心がけましょう。

長時間の正座や、エコノミークラス症候群になりそうなことは避けましょう。

 

7)ホルモン補充療法終了のタイミングは難しいですが、ご一緒によく相談して決めましょう。

ホルモン補充療法を中止しなければならない決められた年齢や治療期間はありません(ホルモン補充療法ガイドライン)。

65才以上でホルモン補充療法を継続されている方では、子宮体癌、卵巣癌、心疾患の有意な減少などが2024年のMenopauseという医学雑誌に報告されています。

 

2024/10/01

ワクチン接種の方へ

 

 

1)子宮頸がんワクチン(シルガード9)筋注 30800円税込×3

 

9価HPVワクチンの予約は1週間前までにお願いいたします。

 

子宮頸がんは性交渉により感染するHuman Papiloma Virus(HPV)が原因となる癌です。30歳代40歳代に発症ピークを持つ若い方の癌で日本では年間約10000人の女性が子宮頸がんに罹患し、約2900人が命を落としています。性交渉ない方は子宮頸がんにならず性交渉の前にHPVワクチンを打てると予防になります。シルガード9HPV6/11/16/18/31/33/45/52/58型の感染を予防できます。1回目の接種を15才になるまでに受ける場合は6ヶ月開けて2回接種、1回目の接種を15才になってから受ける場合は1回目から2ヶ月後と6ヶ月後の計3回の接種となります。15歳未満は効率よく抗体価高くなるため2回の接種で良いとされ、相対的に副反応も少なく接種のいいチャンスです。

誕生日が199742日以降の方はキャチアップ接種として全額無料で受けられる可能性ありますので確認して下さい。意外なほど知られていませんが3回とも無料なのは事実上2024年の9月までですので注意が必要です。キャチアップ接種対象者9学年合計450万人が全員接種したと仮定すると、ワクチン有効率、子宮頸がん死亡率考慮し計算すると、約12000人の方が死亡せずにすむという計算になるそうです。ワクチンと無関係な「有害事象」が強調されますが、ワクチンと関係ある「副反応」はコロナワクチンよりはるかに安全です。副反応出たときには専門機関で対応するシステムもここ10年で構築され、たらい回しということはなく医療側の考え方もずいぶん変わりました。オーストラリア、カナダ、イギリスでは男子女子が学校で並んで接種するため、摂取率が80%越えるそうです。20年後にはこれらの国から撲滅宣言が出るそうです。日本でも10年前に積極的に接種した1994年から1997年生まれは70から80%の摂取率でこの学年はHPV感染が少ないというデータがすでに出ています。日本もできるはずです。

小学校6年から高校1年相当が約90%の予防効果で最も有効ですが、すでにHPV感染している可能性あるものの将来の感染を予防するという点で26才まで推奨され、よく理解し希望があれば45才までの女性にも接種するとさてれます(産婦人科学会ガイドライン)。日本男子は9価ワクチンはまだ認可されず、ようやく4価ワクチンが任意自費で打てるようになりました。熊谷市、品川区では男子にも公費援助が開始されるようです。

必要な方へこれらの情報が早く届くといいと思います。

 

2)帯状疱疹ワクチン(シングリックス)筋注 24200円税込×2

帯状疱疹はほとんどの場合子供の時にかかる水ぼうそうのウイルスが原因で起こります。水ぼうそうが治った後もウイルスは体内に90%の方で潜伏します。年齢により免疫力が低下し50歳ころより発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれております。帯状疱疹は神経節に沿った部位に帯状に赤い発疹が出現しバルトレックスなど有効ですが、発疹消失後も3か月以上痛みなどの神経症状が残ることがあります。

目や耳に発症すると、めまいや耳鳴り、重症化すると視力低下、顔面神経麻痺、髄膜炎や脳炎など後遺症が残る可能性もあります。

シングリックス筋注は50歳以上が対象の帯状疱疹を予防するためのワクチンです(2023年6月26日より50歳以下でも免疫機能低下の可能性ある人、または医師が必要と認めた者へと適応が拡大されました)。帯状疱疹を予防する効果は50歳以上で97%、70歳以上で90%です。筋肉内に注射し、2か月をあけて2回の接種が必要です。2回目は遅くとも6か月後までに接種する必要があります。接種後30分は院内で様子を見させていただきます。

  

3肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)筋注または皮下注 8800円税込 公費の方は4600円税込

肺炎球菌は主に気道の分泌物に含まれる細菌で、唾液などを通じて飛沫感染し、気管支炎や肺炎、敗血症などの重い合併症を引き起こすことがあります。肺炎球菌ワクチンを接種することで肺炎、発熱、呼吸困難、敗血症、髄膜炎の予防効果が期待できます。肺炎は我が国の死亡原因の第5位となっています。また、日常的に生じる成人の肺炎のうち1/4~1/3は肺炎球菌が原因と考えられています。

5年間有効で、2回目以降の接種は自費です。呼吸器系が弱い方はぜひご検討下さい。

 

4)インフルエンザ、コロナワクチン

令和6年度さいたま市インフルエンザおよびコロナワクチン定期予防接種を実施しております。両者とも令和6年10月1日より令和7年1月31日までです。対象は接種時点でさいたま市に住民登録があり65才以上の方です。個人負担金はインフルエンザ1,600円(税込)、新型コロナワクチン(ファイザー社製)3,200円(税込)です。接種回数はそれぞれ1回で、同時接種も可能です。

上記公費負担に該当せず自費で通常の接種を受ける場合には、インフルエンザ4,400円(税込)、新型コロナワクチン(ファイザー社製)16,500円(税込)となります。接種回数はそれぞれ1回で、同時接種も可能です。

 

 

 

 

2023/08/14

なんとなく不調な方へ

身体がだるい、重い、いつものように行かない、どこか変な感じがする。

なんとなく不調な時は、大きな病気の初期症状のこともあるし、逆に今の医学の基準で病気とはいえないこともあり、原因究明には慎重になります。当院で経験する代表的な疾患について説明します。

 

1)貧血

生理の出血量は他人と比較できないので、自分では正常と思っていても過多月経のことはよくあります。鉄欠乏性貧血のパターンで生理直後に採血すると発見しやすいです。この際に、ヘモグロビン濃度が正常であっても、血清鉄や貯蔵鉄が低値であるとメンタル不安定さを感じます。

基本的には鉄剤内服が望ましい治療ですが、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮癌などが原因となっていることもあり、これらに対する検査が必要となることも多いです。

 

2)ホルモンバランス

卵胞ホルモンであるエストロゲン低下によって更年期障害になっていることもあるし、黄体ホルモンであるプロゲストロンにより月経前症候群になっていることもあります。更年期障害と月経前症候群の鑑別は婦人科医でないと難しいこともあります。治療法は違ってきます。原則的には更年期障害であればエストロゲンを補充する方向ですし、月経前症候群であれば自分のプロゲステロンを押さえ込む方向性です。

甲状腺ホルモンが多すぎても、少なすぎても調子悪くなります。疑ったときに採血して調べますが甲状腺異常は少なくなく明らかな異常の時は専門医を紹介しています。

 

3)睡眠障害

OECDの調査によると、先進国のほとんどが女性の方が男性に比べて睡眠時間は長く、フランスの女性が最も長く寝ていました。日本人は男女とも睡眠時間は著しく少なく、特に女性の方が男性に比べて少なくなっています。世界的に見ても日本人女性は睡眠不足です。我が国の女性は男性よりも家事の負担、育児、両親の介護の負担が大きくなっているためと考えられます。NHK放送文化研究所によると、年代別に見ると50歳代の女性の睡眠時間が最も少ないことがわかっています。したがってこの世代は、睡眠不足からなんとなく不調になる可能性は高いです。睡眠障害は様々な疾患の原因になる可能性があり、時には専門医の力が必要となることがあります。気が付かないうちに不安障害やうつ病になっていて、同時に睡眠障害になることもあり注意が必要です。

 

4)心機能、腎機能、肝機能障害、炎症性疾患、膠原病

これらを疑ったときに血液検査、心電図検査、尿検査などを行いますが、異常値を見つけることがあります。たとえば、手指関節痛を訴える方の中には、リウマチファクター陽性、抗CCP抗体陽性になる方がおり、その場合はリウマチ専門医に紹介しております。

 

5)生活習慣病

糖尿病、脂質異常症、高血圧など生活習慣病に知らないうちに罹患していて体調を崩していることがあります。基本的には健康診断等で早期に発見・予防できる機会を持つことが望ましいです。発見の決め手は血液検査、尿検査、血圧測定になります。予防は食事運動療法などの生活習慣の是正、時に薬物療法が必要になることもあります。

 

6)悪性腫瘍

上皮内癌などの初期の悪性腫瘍では症状は出ないことが多いと思われます。ある程度進行してから体調に影響してくるので、まずそうなる前に早期発見が大切です。市町村が行う対策型検診、人間ドックなどの任意検診を定期的に行うことが大切です。それでもくぐり抜けてくる癌はありますので、体調悪い人は悪性腫瘍をいつも念頭に置いて診療すべきと考えています。しかしながら、なんとなく不調なレベルで悪性腫瘍の診断に至ることは難しいことが多いと思います。

女性が罹りやすい5つの癌は、乳癌、大腸癌、肺癌,胃癌、子宮癌の順番です(2019年)。これらの癌検診をしっかり受けましょう。

 

7)妊娠性疾患

周期が乱れた生理の出血と思ったら流産の出血であったり、軽い下腹部痛が子宮外妊娠破裂の始まりであったり、はきけや食欲不振が妊娠のつわりであったりすることがあります。なんとなくこのような不調がある方には尿による妊娠反応を確認いたします。弱い陽性反応が出ることがあります。

2023/06/11

脂質異常症の方へ

悪玉コレステロールLDLが高くても(140以上)、または善玉コレステロールHDLが低くても(40以下)脂質異常です。空腹時の中性脂肪が150以上も脂質異常です。脂質異常が続くと動脈硬化となり大切な血管が詰まってしまい脳梗塞、心筋梗塞になる可能性が高くなります。

女性の場合、閉経までは女性ホルモンのエストロゲンが 悪玉を抑え善玉を増やしています。したがって、閉経までは脳梗塞、心筋梗塞は女性のほうが圧倒的に少ないです。閉経後は男性に追いついてしまいます。女性が100歳まで元気に健康でいるためにはこの点はとても重要です。

HDLLDL、中性脂肪の数値は、健康診断や一般血液検査の時にたいがい確認できます。これらの数値に異常がある場合には、年齢、性別、喫煙、血圧、HDLLDL、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患家族歴の8項目を点数化して、低、中、高リスクと分類し、それぞれ脂質管理目標値が設定されます。(ガイドライン)

 

1) 食生活の改善

積極的に摂るべき食品として、ブロッコリー、にんじん、ごぼう、たけのこなどの野菜、わかめ、ひじき、昆布などの海藻、とうふ、あずき、枝豆などの豆類、しいたけ、しめじなどのキノコ類、こんにゃくなど食物繊維は腸管からのコレステロールの吸収を抑え、排泄を促進します。ほうれん草、かぼちゃ、ナッツ類、植物油などに含まれるビタミンEは動脈硬化を防ぐ働きがあります。

摂りすぎに注意すべき食品として、レバー、もつ、丸干し、しらす干しなど内臓含むもの、たらこ、すじこ、卵の黄身などもコレステロール多く含みます。バター、ラード、生クリーム、肉の脂身など動物性脂肪も要注意で、夕食の白米を減らすなどしてカロリーの摂りすぎに注意しましょう。

 

2) 運動量を増やす

ライフスタイルを変えるため何かアクションを起こさねば何も変わりません。まずは、1週間に3回以上、20分かけて心拍数が10%以上上昇するウオーキングを、大股で少し汗をかくくらいで頑張りましょう。ジム、ヨガ、その他のスポーツができればさらに良いです。6000歩以上が理想で、夏の暑い時は大きなショッピングモールを利用しましょう。

 

3) クレストール、メバロチン(スタチン)

食事、運動療法がうまくいかない方にとり最もメジャーな治療薬です。肝臓の酵素HMG-CoAに働いてLDL生合成を抑制します。同時に肝臓のLDL受容体を増加させ血液中から肝臓内へLDLを取り込み強力にLDLを低下させます。閉経後の方が、食事療法をしながらスタチンを継続服用して、コレステロールをきちんと下げると、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが年齢が上がるにつれて大きく下がることが、日本人8000名を対象とした大規模臨床試験で証明されています。副作用としては、まれにCPK上昇筋肉障害、茶褐色尿伴う腎機能障害、肝機能異常、HbA1c上昇などがあります。定期的な検査が必要です。

 

4) ゼチーア

スタチン不耐な時のお薬です。甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群があるとスタチン無効ですのでその場合は原疾患治療が優先です。ゼチーアは小腸からコレステロールが吸収されるトランスポーターを阻害することでコレステロールを吸収させない薬です。スタチン+ゼチーアまたはゼチーア単独で処方します。おそらく筋細胞内外でのコレステロール値の違いが引き金となって筋細胞破壊を引き起こすと考えられ、ゼチーアもスタチンもその副作用という点同じですが、ゼチーアのほうが筋肉障害は少ない印象です。ストロングスタチンに比較すると効果は弱いです。

 

5) ロトリガ、エパデール

ロトリガはオメガ3脂肪酸エチル粒状カプセルで、いわゆるお魚の油でEPA930mg+DHA750mg 含有です。エパデールはEPAのみで600mg3回内服します。中性脂肪を下げることが主たる目的ですが、血小板凝集抑制作用があるため、血栓予防になりいわゆる血液さらさらの効果が期待できます。動脈硬化を予防するため、動脈硬化性認知症うつ病予防によいとされます。手術を含め出血傾向があるときは不可です。千葉の漁村で魚を食べる人に脳梗塞心筋梗塞が少ないこと、その食べてる量から千葉大の先生がEPA1800mgを見つけたそうです。低用量ピル、ホルモン補充療法など血栓症リスクを伴う治療において、脂質異常のある方の場合に、ロトリガやエパデールを併用すると血栓予防になりとても安心です。

 

6) ベザトール、パルモディア、リピディル

いずれも中性脂肪を主に下げる薬です。肝臓では遊離脂肪酸から中性脂肪が合成されるのを阻害し、血液中では中性脂肪から遊離脂肪酸への分解を促進し中性脂肪を下げます。約15年前にキッセイ薬品さんがベザトールを発売し、市販後調査ということで当院も協力しました。中性脂肪下げ、LDL下げ、HDL上げ、HbA1c下げ、脂肪肝を治しで夢のような薬の登場でした。パルモディアはその作用がさらに強力となり脂質代謝に関わる遺伝子発現にも関与します。2023年12月からは111錠の内服ですむようになります。中性脂肪値が400以上特に1000近い方もいますが、そうなると中性脂肪を下げるため膵臓内でアミラーゼやリパーゼが異常に活性化し膵臓を自家融解し急性膵炎から危篤状態になることもあります。リピディルはそのようなときに頼りになりますが、普段使いは他剤に比較し副作用も強く使い辛い印象があります。

これらの薬は2019年よりスタチンとの併用が禁忌から慎重投与になりましたが、クレアチニンなど少しでも高い人には横紋筋融解症が怖いので併用していません。

 

7) PCSK9阻害薬

家族性高コレステロール血症、冠動脈疾患の2次予防などに必要となり、当院では無理で高次医療機関にお願いしています。

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