当院の診療内容(2)

2023-05-28 07:24:00

月経前症候群PMSの方へ

PMSは排卵日頃から月経開始時期まで心と身体に不調を覚える症候群です。月経が開始し排卵日頃までは症状が消失することが診断の決め手になります。イライラ、うつ状態、不安、不眠、過食、むくみ、便秘、頭痛、嘔気など症状は様々で患者さんにより異なります。黄体ホルモンからできるALLOが脳内の抑制系中枢GABAに作用したり、神経伝達ホルモンであるセロトニンが減少しで発症するとされますが、なお原因不明なところも多い病態です。

 

心の問題が特に強いときは月経前不快気分障害PMDDといわれ、患者さんの約半数が精神科で治療を受けているのが実状です。また、元来うつ病などの疾患があり特に月経前に重くなるのを月経前増悪症PMEといいますが、両者を正確に鑑別することは難しいことが多いです。

 

PMSPMDDを診断する血液検査や画像検査はありません。アメリカの精神医学会DSMⅴ分類ではPMDDは独立した精神疾患とされましたが、実際の日常臨床ではPMSPMDDは連続的で、患者さんのお話をよく聞いて総合的に治療することになります。

 

薬物療法の前に基本となるのは、特に不調なときの生活習慣の改善です。禁酒、禁煙、睡眠確保、起床時間を一定にする、朝日を浴びる、30分歩く、positive thinkingなどが大切です。

 

1ヤーズフレックス

PMSに対する臨床研究で唯一改善効果のエビデンスがあるのが低用量ピルのヤーズになります。ヤーズに配合されているドロスピレノンの抗男性ホルモン作用でイライラなどのメンタル改善や吹き出物を含め脂質代謝改善、また抗ミネラルコルチコイド作用で血圧調節やミネラルのバランスをとっているのでしょう。内因性の黄体ホルモン抑制も作用機序の一つでしょう。毎月生理を起こすのではなく120日連続で内服する連続法のほうがより改善効果を期待できるので当院ではヤーズフレックスを処方することが多いです。しかしながら低用量ピルの方法は、乳がんの有無、血管が詰まる血栓症に注意しなければなりません。

 

2パキシル、レクサプロ

選択的セロトニン再取り込み阻害剤は神経シナプス間でセロトニンを増やします。本来は全般性不安障害、パニック障害、うつ病、PTSDに適応がありますが、PMDDに大変よく効きます。うつ病などは受容体レベルでの異常や細胞内情報伝達経路など深いところまで具合悪くなっているのに対し、周期的なPMDDではシナプスのセロトニンを増やすことで改善できる可能性が高いです。したがって不調な時のみ内服するようなやり方も充分アリです。PMDDで婦人科を受診すればヤーズフレックスが処方され、精神科を受診するとレクサプロが処方される傾向があるようです。

 

3加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蠣湯

加味逍遙散は虚証から中間証で様々な症状が体中を歩き回り逍遙するようなケースに奏功します。漢方の安定剤ともいわれ基本処方です。柴胡加竜骨牡蠣湯はもともと実証の方に適応ですが、やせていても症状が激しく「症状が実」の時は奏功します。ヒステリーのようなイライラ、落ち込み、育児のストレスに有効です。当院では比較的処方数は多いです。

 

4トコエル

大塚製薬から発売されたPMSのためのサプリメントです。ビタミンEの一種であるγ-トコフェロールとγ-トコトリエノール、大豆イソフラボンが腸内細菌で変換されてから作られるエクオール、日本人に不足しがちなミネラルで特に女性が意識して摂りたいカルシウム。4つの成分を同時に摂取できる複合型サプリメントです。それぞれ、ナトリウム排泄作用、ホルモン調節作用、メンタル安定作用などが期待できます。日本女性医学学会誌でもPMSに対する有効性が発表されており当院でも販売しております。(月経前7日間摂取で7日分1300円税込)